今日は、11月11日。

カレンダー上、最も同じ数字が並んでいる。
正直、少し奇妙な日。

おれは、家でただ一人リビングでテレビ画面を眺めていた。

え?何で一人なのかって?

なんでも、今日は部活の練習試合が有るらしく、小狼はまだ帰宅していないのだ。

現在7時37分。

練習予定表に目を運ぶと、終了時間は7時10分。確か、練習試合は学園から少し離れた運動場で行うと小狼が言っていた。
徒歩では時間が掛かるため、電車に乗って移動するらしい。
流石に、もう数分もしたら帰ってくるだろう。

夕飯を済ませ(小狼の分は勿論用意してある)、暇になったので、テレビのチャンネルをむやみやたらにまわしている。
そんな現在進行形。

いつも見ている番組は、他の特番に潰されてしまったため、今日は無い。
しかも、興味をそそられるような番組が見付からない…。

仕方ないので、某バラエティー番組を見ようとチャンネルを合わせる。
すると、大食い特集を組んでいたらしく、あまりにもダイナミックな量のラーメンが画面に映っていた。
……見ているだけなのに、胸焼けがしてくる。
いや、いくらなんでも盛りすぎだろ。
調理映像を見ると、麺の量も凄そうだが、それ以上にトッピングの量が半端じゃない。

……麺にたどり着く前にギブアップだな、おれは…。

苦笑いを浮かべていたら、玄関から足音が聞こえてきた。
小狼が帰って来たのだろう。
その足音の主はリビングの扉の前で一瞬停止し、ガチャリと音を立てて扉から姿を現した。

『ただいま……』
「お帰り。お疲れさん」

かなり、ハードな練習内容だったのか知らないが、小狼の顔には明らかな疲労が表れていた。

「練習、大変だったのか?いつもより疲れてるみたいだが…」
『ぁ、違うんだ。勿論練習は疲れたけど…電車が混んでて大変で』

普段あまり乗らないからね、と荷物を置きながら話す小狼。

おれ達は徒歩通学なので、電車なんて休日に何処かに出掛ける時しか乗ることは無い。
しかし、土曜日は講習と部活で埋め尽くされている。
結果、休日と言える休日は日曜のみだ。
尤も、日頃の疲れを癒すために、家で過ごす事のほうが多いのが現状なんだがな…。

なんて考え事に耽っていたら、目の前にお菓子の白い縦長の袋を差し出された。

「…?何だ?」
『ポッキーだよ。何かね、今日11月11日って「ポッキーの日」なんだって。それで、部活のマネージャーの女の子が、「良かったら貰って」って…。折角だから、有り難く貰ってきちゃった』

そう言って、小狼は袋の中から一本取り出し、それを口へと運ぶ。
ふ~ん…と、若干棒読みな返答をしながら、そういえば、CMでやってたな…と思っていたおれだったが、急にある事を思いついた。

ポッキーに因んだ、ある遊び。

おれは、楽しそうに含み笑いをして、その考えを提案する。

「なぁ、小狼」
『なに?』
「それ、ただ普通に食べるよりも、面白い食べ方があるぞ」
『ポッキー食べるのに面白いも何も無い気がするけれど…?』
「そこのところは、どうでも良いから」
『う、うん…で、面白い食べ方って?』

小狼は首を傾げながらポッキーを食べて言った。
それは、軽快なリズムで音を立て、段々と短くなり、最後には無くなった。
小狼が話の内容に興味を持ちはじめてくれたので、おれは喉の奥で軽く笑ったが、小狼は気づいていなかったらしい。

おれはポッキーを取り出し、小狼にくわえるように指示する。
頭の上に『?』が数個浮かんでいたが、小狼は、すんなりと従って端っこを口でくわえる。
困った顔で、こちらを見てくる姿は可愛いものだったが、そろそろ答えを教えてやろうか。

「小狼、ポッキーゲームって知ってるか?」
『うん。…それがどうかしたの?』

キョトンとした顔で応える小狼。
………なぁ、小狼。お前、本当に分かって無いのか?;
地味に弟の今後を不安に思っていると、先程の言葉が意味しているものに気付いたのか、小狼はハッとした顔をし、顔を朱く染めた。

『ま、まさか……』
「やらないか?おれと。折角有るんだし」

にこりと笑ってそう言うと、小狼は目を泳がせて俯き、小声で『……恥ずかしいんだけど』と呟く。

『第一、兄弟でそれは無いんじゃ…』
「じゃあ、恋人として」
『うぅ……』

一向に引かないおれに参ったのか、小狼は少し考える素振りを見せてからコクっと頷いた。

『ぃ、一回だけだからね?』
「分かった」

からかう様に笑って、小狼の顎を上に持ち上げ、正面を向かせる。
そして、ポッキーのもう一方を口にくわえると、二人の顔の距離がかなり近くなった。
小狼の目線がおれから逸れていたので、「こっち見て」と、出来るだけ優しく命じる。
その瞬間、二人の琥珀の瞳がかちあった。

『………っ』
「小狼。目、瞑ったりするなよ」
『…うん……』
「あと、途中で止めたら駄目だからな」
『……うん…』

小狼の頬は既にほんのりと紅く色付いており、緊張しているのが良くわかる。
おれが、パキリとひとくち食べると、その音が合図になったかの様に、小狼もパキッと音を鳴らした。

テレビの雑音を背に、短い乾いた音が断続的に室内に響く。

距離が短くなるのにつれて、心拍数が上昇していく。

……そして、二人の唇が重なり、最後の音が鳴り終わる。
小狼は恥ずかしさのあまり、顔を離そうとしたが、前もって予想していたおれが小狼の後頭部を手で押さえ付けたため、それは叶わなかった。
おれは、そのままスルリと口腔に舌を忍び込ませ、小狼のを絡めとる。

『んぅ……ぁ…ふぁ…』

鼻に掛かった甘い声が漏れ、それがおれの理性を侵蝕していく。
ざらりとした感触が頭の中を掻き回し、他には何も考えられない。
濃厚なキスに溺れている小狼の身体を床に押し倒し、唇を離すと、銀の糸が二人を結んだ。

『っ……はぁ、は…ぁ』

荒くなった呼吸を、必死に整えようとする小狼。その顔は紅潮していて、目には生理的な涙が浮かんでいる。
おれはそんな小狼の髪をサラリと撫で、くすりと微笑んだ。

「小狼、可愛い」
『なん…で、いきなり……』
「だって、好きな奴にあんな顔されて、手を出さないってほうが無理だろ」
『……そ、そう』

満面の笑みでそう言うと、呆れたかのような反応が返ってきたが、想定済みなので気にしないでおこう。

『ね…、兄さん』
「何だ?」
『…も、一回だけ……キス…して?』

おれは、その言葉に一瞬耳を疑った。いつもは、滅多にそういう事を自分からねだったりしないから。

「……してやっても良いけど、おれの希望も聞いてくれるか?」
『……?』
「襲っても良いか?いま、此処で」
『―――っ!??』

すると小狼は、ただでさえ朱かった顔を、更に真っ赤にした。
そして、視線を右に逸らすと、聞こえるか聞こえないかというくらいの小さな声で『……此処は、ちょっと…やだ…』と言ってきた。

「だったら、部屋行くか?」
『……ん』

羞恥に再び俯いた姿が可愛くて、おれはくすくすと笑うと、小狼を横抱きした。
いきなりふわりと身体が宙に浮いたせいか、小狼は『ほぇ?』っと間の抜けた声を出してしまった。
そして、自分が抱き抱えられている事が判ると、焦り始める。

『じ、自分で歩けるってば…』
「そうだろうけど、おれがこうしたいだけだ。気にするな」
『…気にするよ。降ろしてってば!』
「聞こえないな」
『ちょっ、兄さんっ!』

おれは上機嫌で部屋に向かい、ドアを閉じる。


その後どうなったのか…そうだな。
月だけが知っているとでも言っておこうか。
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