部活が終わり、おれは珍しく一人で帰路につく。
いつもなら部員と帰る事の方が多いのだが、今日は相手側に用事が有るらしい。
一緒に行かないかと誘われたが、なんだかそんな気にはなれず断ってしまった。

月明かりと街灯が照らす道を、重い足取りで進む。

『はぁ……』

不意にため息が漏れた。

なんだか、放課後からずっと気が重い。
そのせいかは知らないが、部活の時に先輩に「今日は、調子悪いな。どうした?」と言われてしまう有様だ。

別に、具合が悪いわけではないはずなのに、酷い疲労感がある。熱でも出たのかと思い、保健室に行って熱を測ったが、いたって平熱であった。

『なんでだろ……』

いままで、こんな事無かったのに。
…あの時、掃除の時に小龍が女子と一緒に居るのを見たときから、何かがおかしい。
なんで?
兄が誰と居ようと、自分には関係無いはずなのに。

『――でもあの時の兄さん、楽しそうに笑ってた…』

普段滅多に感情を表にしない兄が、あの子に向けた笑顔。
それがもし、……もしも恋愛感情からなるものだったら?

『………っ』

そんなわけ無い、と自分の頭を横切った考えを否定する。
いや、正確には否定したかった。けれど、簡単には出来なかったのだ。

だって、おれと居ても兄さんには何の得も無い。
寧ろ、損することの方が多いかもしれない。
…告白してくれたのは、兄さんからだったけど。
でも、男同士だから結婚も何も出来ないし、女性みたいに子孫を遺せるわけでも無い。
それに、実の…それも双子の兄弟同士の恋愛だなんて、世間から疎まれるだけだ。
小龍のことを考えたら、弟である自分と付き合うよりも、あの子と付き合った方が良いのだろう。

『(……兄さんは、あの子が好き…なのかな…?だとしたら、おれは―――』

途端、小狼の足がピタリと動きを止めた。
考え事をした格好のまま、俯きながら目を見開いていた。
その琥珀の瞳は、あきらかな動揺を隠せずいる。

『………………………………………………飽き…られた?』


――――ズキッ!!


不意に痛みが走る。
あの時と同じ、胸の痛み。
しかし、前よりもその痛みは強く、一瞬で鎮まるものでも無かった。

『………ぅ』

胸に感じる痛みと苦しみ、そしてとてつもない虚無感。
それに誘発されてか、鮮明だった視界が歪んできた。
温かなものが頬を伝い、地に向かって落ちる。
途中で、何人かとすれ違った。
それでも、おれは気にせず歩いた。
それを拭えるだけの、心の余裕が無かったから。

思わず出てしまいそうな声を押し殺して、…家に向かう。

兄…小龍が居るであろう、その家に。
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