カツンカツン…


掃除を終わらせ部活に向かったのか、他の生徒の姿は見当たらない。
閑散とした廊下に、二人の足音だけが響く。

サクラ『大丈夫?』

二人で並んで歩いていると、沈黙を破るようにしてサクラが口を開いた。

『え……?』

自分は、何の事を大丈夫かと言われているのか理解できなかった。
前に部活で怪我をした時も、今のように大丈夫かと聞かれた事がある。
けれど、今は怪我なんてしていないし……。

口を半開きにしたまま固まっていると、そんな小狼の心情を悟ったのか、サクラは言葉を付け足した。

サクラ『さっき、林子ちゃんにあの子の事を小龍くんに話してほしいって頼まれた時……なんて言うか…痛い顔していたから』
『そんな顔…してたかな?』
サクラ『うん』

驚いた。
自分では隠せていたと思っていたのに、サクラには見透かされていたらしい。
ひょっとしたら、ただ単に自分でも気づかぬうちに、表に出してしまっただけかもしれないが。

サクラ『何かあったの?私で良いなら、話聞くよ?』
『別に大したことじゃないから、大丈夫だよ』
サクラ『…嘘』

そう言って、サクラは白く柔らかな手の平を小狼の頬にあてる。

サクラ『じゃあ、……なんでそんな泣きそうな顔してるの?』

そう言ってくるサクラの方が、今にも泣いてしまいそうだと、小狼は思った。
それくらい、辛そうな表情を浮かべており、自分自身も目の前の少女と同じような表情をしているとは思いもしなかった。

サクラ『わたしには…話せないこと?』
『………ごめん…』

小狼が謝罪の言葉を口にすると、慌ててサクラが訂正する。

サクラ『ううん!小狼くんが悪いわけじゃないの!!…ただ、話したら少しでも楽にならないかなって思っただけなの……』
『サクラ…』
サクラ『話したくなかったら話さなくて良いよ。でも、話したくなったら…言ってね?』
『…有難う』

相手の事を、自分の事のように心配してくれるサクラ。
そんなサクラに、心からの感謝を込めて軽く微笑んでみせた。
するとサクラは、今度は本当の笑顔だということを確認し微笑み返す。

サクラ『早く捨てに行かないと部活遅れちゃうね…。行こっ!小狼くん』
『うん、そうだね』

二人は、先程よりも速いペースで廊下を駆けて行った。
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