林子『実はさ、あの子、小龍のコト好きみたいなんだよね♪』
『…えっ?』

一瞬、自分の耳を疑った……いや、聞き間違いであって欲しいと思った。

兄が女子から好意を持たれるのは、別に珍しいことではない。
今までも、何度か有った。

でも、自分達が付き合ってから…想いを伝え合ってから、そのような出来事はまるで起こらなかったから。
だから、耐性が無くなってしまっていたのかもしれない。

ヒマワリ『そうなの?』
林子『だからね、ちょっと小狼にお願いがあるんだ』
『………』

そう林子が小狼に向かって頼みかけるが、反応がない。
林子は、呆然として立ち尽くす小狼の目の前で、手の平をブンブンと動かした。

林子『?小狼、聞いてる??』

はっとして顔を上げると、そこには、不思議そうにしている女子達の顔。
出来るだけ不審に思われないように、必死で笑顔を取り繕う。

『な、何?』
林子『小龍にあの子のコトをどう思ってるか聞いてくれない?それとなくね?』

どうやら自分に仲立ちをして欲しいらしい。所謂、恋のキューピッドってやつだ。
お願い、このとおりっと頼まれるが、正直なところ、乗り気にはなれない。
二人を付き合わせるという事は、自分が小龍から離れなければならない、というのとイコールなわけで…。

(けど、ここで断ったら怪しまれるよね…?)

此処にいる三人は、小狼と小龍が付き合っているだなんて思いもしていないだろう。
自分達の関係が世間に受け入れてもらえるものでは無い為、知られていたらまずいのだが。
普通はこのような場合、手を貸すものだ。
なら、怪しまない為にと自分を説得して自然に笑えるように一息置いてから言葉にする。

『うん、良いよ』


――――――ツキンッ



途端、胸にチクリと痛みが走るのを感じた。
不思議に思った小狼だったが、今はそれどころでもない。
林子は小狼の手をガッシリと掴み、感謝の気持ちをあらわにしてブンブンと上下に振り回した。


林子『よしっ!!じゃあヨロシクね』
『う、うん』

そう言うと林子は、仕事が有るから先に帰るねと言い残し、足早に教室を去った。
芸能人というのも大変だ。

小狼は、掃除用具を戻しながら誰にも見えない様に、ふぅ…とため息をついた。
けれど、さっきから小狼の様子が気になっていたサクラには気付かれてしまったようで。

サクラ『小狼くん。あとゴミ捨てに行けば終わりだから、一緒に行こ?』
『ぇ、大丈夫だよ。おれ一人で……』
サクラ『行こっ。…ね?』

本当に一人で大丈夫なのだが、サクラがそう言ってくれているのに、無下に断るのは申し訳ないだろう。

『…有り難う』

素直に好意を受け入れることにした。
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