『…暑い……』
「…暑いな……」

ジリジリと照りつけるような日差し。
まだ夏は始まったばかりなのだが、今年はやけに暑い日が続いている。
こんな日でも、学校は有るのだから、あまりにやる気が出て来ない。

ただ今、昼休み終了10分前。


小狼と小龍は、昼休みには必ず二人で昼食をとることになっていた。
それが二人の約束だったからだ。

今日は、屋上で仲良くお弁当。

直射日光が気になるが、風に当たれるため、教室の中よりも幾分か涼しい。
そのためか他にも生徒の姿は、ちらほらと見ることが出来る。

『日本の夏って、どうしてこんなに湿気が多いんだろう』

二人は、海外からの留学生。
しかも、日本に住んで、まだ1年も経っていなかった。
そのため、日本の夏は二人にとって、今年が初めてだったのだ。

「おーい。…二人とも、大丈夫か……?」
『四月一日くん…』

ぐったりとしていた二人に声をかけたのは、小狼と同じクラスの四月一日君尋(わたぬききみひろ)であった。

「お前は平気なのか…」
「ん?いや、平気ってわけじゃねぇけど…。まぁ、小龍たちよりは慣れてるからなぁ」
「……そうか」
「そういえばさ、ファイ先生と黒鋼先生が、二人のこと探してたけど……」
『えぇっ!?本当!??』

小狼は、先程までぐったりしていたとは思えない程の速さで、その場に立ち上がった。

『そういえば、おれ、ファイ先生にテストの追試、受けるように言われてたんだっけ』
 「追試!??…小狼が?」

四月一日が不思議そうな顔をして聞いてきた。
それもそのはず。小狼はクラスでも常にトップクラスの学力だったからだ。

「お前がか!??」
『うん。…ほら、今日って部活無いでしょ?だから、前そう言われたんだ』

小龍の反応を見て、今一度、四月一日は小狼に問う。

「小龍がそんなに驚くってコトは、……やっぱりありえないのか…?追試って」

そんな四月一日をよそに、小龍は別のところに目をつける。

「小狼、追試の理由とか言われたか?」
『え?うぅん、特に何も…。
けど、追試ってことは、きっと解答の仕方に問題があったんじゃないかな?』

悩む三人であったが、とにかく先生達に会いに行かなくては。

残り時間は、あと5分。
走って探せばなんとかなりそうだった。

『ファイ先生たち、何処に居るかな?』
「四月一日、お前は何処で会ったんだ?」
「2階の西廊下だよ。けど、多分他の場所に移動しちまってるんじゃないかな…」
『そっか……』
「他に考えられる場所ってばなぁ…」
「職員室に居たら苦労しないんだが………んっ?」


―――バタンっ!!!!


いきなり、屋上のドアが開いたかと思うと、そこには探そうとしていた人物が立っていた。

『ファイ先生!!』
『やっほ~!小狼くん、探してたよ』
「黒鋼先生まで……」
「おう」
『小狼くん、ちょっとコッチに来てくれる?』
『ぁ、はい』

小狼はそう言うと、駆け足で、ファイの所へと寄っていった。

『えっとね、この問題なんだけど………』

と、小狼に丁寧に(小龍からすれば、別に今じゃなくても良いだろと言わんばかりな感じに)教え始める。

「黒鋼先生も、小狼に用が有るんですか?」
「いや、俺が用が有るのは…お前だ」
「……はい?」

そう尋ねると、黒鋼は少し身体を屈めて、目線を小龍に合わせた。

「あのヘラヘラした教師が、何か不信な行動をしていないかどうか……だ」
「ヘラヘラって、ファイ先生ですか?」
「そうだ。何か知らねぇか?あいつ、過去に問題起こしてっからよ…」
「……他の人に対しては知りませんが、ファイ先生の行動は、いつも不信だと思いますが」
「まぁ、お前にとってはそうかもな」

普段の、小龍の小狼への態度から、どれだけ弟を大切に思っているかは見てとれる。
黒鋼も例外では無く、その事は重々承知していた。
 
「まったく、困ったものです……。最近、小狼にやけに馴れ馴れしいし………。隙あれば、頭や肩に触れてくるしで…」

ぶつぶつと、ファイに対しての不満を口にする小龍。

そうしている間も、小龍は少し眉間にしわを寄せて、ファイのことをずっと睨んで観察している。
何時、何処で小狼の身に何が起きるか分からない(小狼は、大袈裟過ぎると言っていたが…)ので、あまり二人は離れて行動しない。
下校時は、お互いの部活や用事が無い時だけであったが、登校時は勿論一緒。
今日は一緒に帰れる……と思っていたのだが、この様子ではどうやら無理そうだ。

「でも、まだそれぐらいなので、そんなに気にしてませんが」
「そうか。なら良いんだが」

と、小龍が思ったのも、つかの間だった。
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